導入:「日本は終わってる」という口グセの正体
会社の飲み会、ニュース番組、SNSで。
どこにいても、こんな言葉を耳にしないでしょうか。
- 「日本はもう終わってるよ」
- 「頑張ってもどうせ報われない」
- 「成長しなくても、そこそこ生きられればいいじゃん」
最初は冗談のように聞き流していた一言が、いつの間にか頭の中に住みついて、
自分の未来まで暗く塗りつぶしてくる。
私は、サイエンスジャーナリスト・鈴木祐さんの新刊
『社会は、静かにあなたを「呪う」』を読んだとき、この感覚に名前がついたと感じました。
この本では、「他者のメッセージがもつ強い影響力」 を「呪い」と呼び、
それが私たちの思考や感情をどれほど歪めているかが科学的に整理されています。
本を読み終えたとき、私ははっきりと自覚しました。
「あ、これはもう“日本社会の空気”じゃなくて、“呪い”なんだ」
家族、友人、会社、テレビ、ネットニュース、SNS。
どれも「情報」として受け取っていたつもりが、気づけば
「この国は終わっている」という前提でしか考えられない頭 になっていたのです。
この記事の目的はシンプルです。
- 「現代人にかけられた呪い」の正体を、データと心理学から言語化すること
- そして、「日本は終わってる」「成長はもういらない」 という思い込みから
少しずつ抜け出すための具体的なステップを示すこと
あなたの中にあるモヤモヤを、「自分が悪いわけじゃない」 と理解しつつ、
それでも 「ここから先は自分で選び直せる」 と感じられる記事にしていきます。
目次
現代人にかけられた「呪い」とは何か

「呪い」を定義する:他者のメッセージが心を支配する仕組み
鈴木祐さんは、『社会は、静かにあなたを「呪う」』の中で、
「他者のメッセージが持つ強い影響力」 を「呪い」と呼んでいます。
ポイントは次の3つです。
- 呪いとは、オカルトではなく 「思い込みを生み出すメッセージ」 のこと
- 多くの呪いは、もっともらしく聞こえるが 根拠があいまい
- 一度信じ込むと、自分で自分を縛る 「見えないルール」 になってしまう
たとえば、次のような言葉です。
- 「これからの日本で若者が豊かになるのは不可能だ」
- 「遺伝でほぼ決まるから、努力しても意味がない」
- 「幸せにならなきゃいけない」というプレッシャーそのもの
こうした言葉は、一見すると「現実を直視した冷静な意見」のように見えます。
しかし、データの切り取り方や前提を変えると、まったく違う風景が見えてきます。
呪いの正体は、「反論しにくいけれど、よく考えると根拠があいまいな物語」 です。
数字で見る「日本は終わってる」感の背景
「日本はオワコン」「この国は終わってる」という空気には、確かに背景があります。
いくつかのデータを冷静に見てみます。
- 長期的な経済成長率の低下
日本銀行の推計によると、日本の潜在成長率は
1980年代後半には年率+4%程度ありましたが、
その後低下を続け、近年は+0.5%前後で推移しています。
「昔の勢いはない」という感覚には、一定の根拠があります。 - それでも日本経済は「ゼロ」ではない
日本のGDP成長率は2024年0.5%から、2025年には1.1%の成長が見込まれています。
「右肩下がりで地獄に落ちている」というよりも、
「低成長だが、工夫次第で伸ばせる」 という位置づけです。 - 若者の将来不安と自己肯定感の低さ
内閣府や関係機関の調査では、
日本の子ども・若者は、自己肯定感や将来への希望が
諸外国と比べて低めであることが指摘されています。 - 仕事のストレスとメンタル不調
労働政策研究・研修機構の分析によると、
過去1年間に 「メンタルヘルス不調による1か月以上の休業・退職」 が
出た事業所は全体の13.5%にのぼります。
こうした数字は、
「何も感じるな」「問題はない」と言っているわけではありません。
むしろ、
- 成長率は下がっている
- 将来不安やメンタル不調も増えている
という 「しんどさの現実」 を裏づけています。
ただし、ここで大事なのは次の点です。
データが示しているのは「課題がある現実」であって、
「あなたの人生は詰んでいる」という結論ではない。
この「現実」と「結論」の間に、
いつの間にか 「日本は終わってる」「成長してもムダ」という呪い が入り込んでいるのです。
健康・時間・お金・心理に広がる「呪い」の影響
「日本は終わってる」「どうせ変わらない」という呪いは、
私たちの生活のあらゆる面に、じわじわと入り込んでいきます。
健康
- 将来に希望が持てない → 睡眠が浅くなる、疲労感がとれない
- ストレス解消が「スマホだらだら」「お酒・タバコ」に偏る
- メンタル不調を感じても、「どうせ変わらない」と受診を先延ばし
時間
- SNSやニュースでネガティブ情報を延々と眺めてしまう
- 「何をしてもムダ」と感じる → 勉強や運動の時間をとる気力が出ない
- 休日も「何をしても意味ない」と思いながら、ただ時間だけが過ぎる
お金・キャリア
- 転職・副業・スキルアップなどの挑戦を避ける
- 「日本全体がダメだから」と、自分のキャリア戦略をあきらめる
- 投資や資産形成にも興味が持てず、将来の選択肢が狭まる
心理・人間関係
- ちょっと前向きな話をすると、「意識高いね」と冷やかされるのが怖い
- 自分の本音を出さず、周りのネガティブに合わせてしまう
- 「どうせこの国では無理」と思うことで、挑戦している人を素直に応援できない
呪いの厄介なところは、「何かを禁止」するのではなく、
「どうせムダ」と思わせて行動する気力を奪うこと にあります。
なぜ人は簡単に「呪われてしまう」のか
心理学が示す4つのトラップ
「呪い」が効いてしまうのは、
人間の脳のクセと、かなり相性が良いからです。
心理学でよく知られているものを、4つだけ挙げます。
1. 学習性無力感
心理学者マーティン・セリグマンは、
「何をしても状況が変わらない経験を繰り返すと、
その後は変えられる場面でもあきらめてしまう」 現象を
「学習性無力感」と呼びました。
テスト・就活・仕事・人間関係。
挑戦しても上手くいかない経験が積み重なると、
- 「どうせ努力してもムダ」
- 「日本ではもう頑張っても報われない」
と感じやすくなります。
2. ネガティビティ・バイアス
人間は、ポジティブな情報よりも
ネガティブな情報に強く反応しやすいことが、多くの研究で示されています。
- 悪いニュースほどクリックしたくなる
- SNSでも炎上や批判の投稿が目につきやすい
このクセがある限り、
「日本は終わってる」というメッセージの方が、
「改善の余地がある」というメッセージよりも、
心に残りやすくなります。
3. 社会的比較
他人と自分を比べる「社会的比較」も、呪いを強くします。
- SNSで、海外移住・FIRE達成・高収入の人の投稿を見る
- 自分の給料明細や生活と比べて、強烈なギャップを感じる
このとき、
- 「自分がダメだ」と落ち込む
- その感情を守るために、「日本だから仕方ない」と国のせいにする
という2段構えで、呪いが心に定着しやすくなります。
4. 権威バイアスと多数派バイアス
肩書きのある人、有名人、フォロワーの多いアカウントが
「日本は終わっている」と言うと、その言葉の重みは一気に増します。
- 「あの専門家が言うなら、そうなんだろう」
- 「みんなそう言っているから、そうに違いない」
この 「権威バイアス」 と 「多数派バイアス」 の組み合わせによって、
呪いは「一つの意見」ではなく、
「反論してはいけない事実」 のように感じられてしまいます。
呪いを解く5つのステップ
Step1:「それ、呪いだ」とラベリングする
最初のステップは、とてもシンプルです。
- 「日本は終わってる」
- 「成長しても意味がない」
- 「若者はもう詰んでる」
こういった言葉を耳にしたとき、
心の中で 「これは呪いのメッセージだ」 とラベリングします。
ポイントは、反論することではありません。
- 相手を論破しようとしない
- 自分の中で、「これは事実ではなく“物語”だ」と区別する
名前がつくと、距離が取れる。
これは心理療法でもよく使われるテクニックです。
Step2:事実と解釈を分けて書き出す
次に、「事実」と「解釈」をノートに分けて書きます。
例として、「日本は終わってる」というメッセージを分解すると、こうなります。
| 区分 | 内容の例 |
|---|---|
| 事実 | 日本の潜在成長率は、1980年代後半は+4%程度だったが、近年は+0.5%前後で推移している。 |
| 解釈 | だから日本は完全に終わっていて、若者が豊かになる未来はない。 |
「事実」は、統計や公式データで確認できる内容です。
「解釈」は、その事実をどう意味づけるかという ストーリー です。
書き分けることで、
- 「しんどい現実はある」ことを認めつつ
- 「だからといって、未来がゼロと決まったわけではない」
という 冷静さ を取り戻せます。
Step3:数字は自分で取りに行く
呪いの多くは、「数字の切り取り方」 から生まれます。
たとえば、
- 「1人あたりGDP」だけで国の豊かさを語る
- 一時的な円安や株価だけを見て、国の将来を断言する
といった話です。
そこで、次の習慣をつけます。
- 情報の元データに当たる癖をつける
- 経済:日銀・内閣府・総務省・OECDなどの公式資料
- 働き方・メンタル:厚労省や労働政策関連の調査
- 一つの指標だけで判断しない
- 成長率だけでなく、失業率、健康寿命、治安、技術力など
- 短期の数字より、5〜10年のトレンドを見る
ここで大事なのは、
「日本は実は素晴らしい国だ!」とポジティブ洗脳をすることではありません。
そうではなく、
「最悪だ」と断言する前に、
自分の頭で一度は数字を確かめる
という 「思考の主導権を取り戻す」 行為です。
Step4:自分の「小さな成長ログ」をつける
呪いは、「社会全体」の話として語られます。
- 「この国は終わっている」
- 「日本社会では〜」
しかし、あなたが実際に生きているのは、
自分の半径5メートルの世界 です。
そこで、社会ではなく 「自分の成長」 を記録する
「小さな成長ログ」をつけます。
たとえば、次のような項目です。
- 今日の学習時間(例:英語30分、資格勉強20分)
- 読んだページ数・聞いた講義数
- 運動量(散歩・筋トレ・ストレッチ)
- 副業やプロジェクトに使った時間
形式はなんでもかまいません。
- ノートにチェックリスト
- スマホのメモアプリ
- スプレッドシート
大事なのは、「昨日より1mmでも前に進んだ証拠」 を、
目に見える形で残すことです。
学習性無力感を和らげるには、
「自分の行動が結果を生んでいる」 という感覚を、
小さな単位で積み重ねることが有効です。
Step5:「3か月の実験」を1つ決める
最後に、呪いに対抗するための 「小さな反乱」 を起こします。
それが 3か月単位の「人生実験」 です。
たとえば、次のようなテーマがあります。
- 副業:月1万円の売上を目指す
- スキル:TOEIC/資格/プログラミングなどの学習
- 健康:毎日20分のウォーキング
- お金:支出の見える化と、毎月の積立投資
これを、5W1Hで具体化します。
- What(何を):英語の勉強をする
- Why(なぜ):将来の転職や海外案件の選択肢を増やすため
- Who(誰と):一人で/オンラインコミュニティと一緒に
- When(いつ):平日20:30〜21:00
- Where(どこで):自宅の机で
- How(どのように):アプリとテキストを使って、1日30分
3か月たったら、「結果よりも、やってみてどう感じたか」 を振り返ります。
- 「意外と続けられた」
- 「このやり方は合わなかった」
- 「次はここを変えてみよう」
この繰り返しが、
「何をしてもムダ」という呪いに対する、最も現実的な解毒剤 になります。
進捗を確認するチェックリスト
最後に、呪いを解くための行動を
一目で確認できるチェックリストを用意します。
| 項目 | できている | これから | 最初の一歩メモ |
|---|---|---|---|
| ネガティブな言葉を「呪い」とラベリングしている | □ | □ | 1つでも気づいたらメモする |
| 事実と解釈をノートで書き分けている | □ | □ | 「日本は終わってる」を分解してみる |
| 気になるニュースの元データを確認している | □ | □ | 1つだけで良いので、公式統計にアクセスする |
| 「小さな成長ログ」を毎日つけている | □ | □ | 今日から3項目だけ記録する |
| 3か月の人生実験を1つ決めている | □ | □ | テーマ候補を3つ書き出す |
すべて埋める必要はありません。
「1つでもチェックが増えたなら、それは確実に呪いが弱まった証拠」 です。
「日本は終わっている」のウソとホント
経済:長期停滞は事実、でも「ゲームオーバー」ではない
日本の経済は、確かにかつての高度成長と比べれば「低成長」です。
- 潜在成長率は1980年代後半には+4%程度
- その後低下し、近年は+0.5%前後で推移
これは、「昔のような右肩上がり」は期待しにくい、という現実を示しています。
しかし、OECDの最新の経済見通しでは、
- 2025年の日本の実質GDP成長率は 1.1%のプラス成長 と予測されています。
また、構造改革や人材投資・生産性向上によって、
+1%超の成長を継続するシナリオも提示されています。
つまり、
「課題は多いが、成長の余地がゼロではない」
これが、データが示す日本経済の現在地です。
働き方とメンタルヘルス:ストレス社会という土壌
働く人のメンタル不調も、「呪い」が効きやすい土壌になっています。
- メンタルヘルス不調による 1か月以上の休業・退職が出た事業所は13.5%
- 事業所の多くは、ストレスチェックや職場環境の改善などに取り組み始めているものの、
現場で働く人の負担は決して軽くありません。
こうした状況で、
- 「頑張っても報われない」
- 「会社に人生を捧げても意味がない」
という感情が生まれるのは、ごく自然なことです。
ただし、ここで重要なのは、
「会社や社会の課題」と
「自分のキャリアや人生をどう設計するか」は、
完全にはイコールではない
という点です。
環境を批判するだけで終わるのか、
その環境を踏まえたうえで、
「自分の選択肢を増やす方向」に動くのか。
この分かれ目に立つためにも、
呪いの言葉を一度「外側から」見直す必要があります。
若者の自己肯定感:「呪われやすい」背景
政府の調査では、
日本の子ども・若者は、自己肯定感や将来の希望が
諸外国より低めであることが繰り返し指摘されています。
つまり、「日本は終わってる」「成長しても意味がない」といった呪いは、
「受け手側の心が弱いから刺さる」のではなく、
環境的にも刺さりやすい状況が整っている ということです。
これは逆に言えば、こうも解釈できます。
呪いに気づいて、思考と行動を変えた人は、
それだけで大きな差をつけるチャンスがある。
「周りがみんな同じ方向を見て落ち込んでいる」
というのは、見方を変えると
「一歩抜け出すだけで、景色がかなり変わる状態」 とも言えます。
学びを深めるためのおすすめ本
最後に、呪いについて学び、自分で考えるための
「一次情報・専門情報」への入り口をまとめます。
おすすめの本
- 『社会は、静かにあなたを「呪う」』(鈴木祐)
他者のメッセージが私たちの思考や感情をどう歪めるか、
経済・幸福・遺伝・才能などのテーマで解き明かした一冊です。https://amzn.to/4iXT5oj - 『マインドセット 「やればできる!」の研究』(キャロル・S・ドゥエック)
「成長マインドセット」と「固定マインドセット」の違いを示した名著。
「成長を諦めた人」が、再び成長を楽しむための土台になります。https://amzn.to/3Y4C4PF - 『オプティミストはなぜ成功するか』(マーティン・セリグマン)
学習性無力感の研究から、悲観と楽観の違いを学べる一冊です。https://amzn.to/4pivBMc
ポイントは、「誰かの解説だけで完結しない」ことです。
一度で良いので、 自分の目で一次情報に触れる体験 をしてみてください。
まとめ
ここまでの内容を、コンパクトにまとめます。
- 現代人にかけられた「呪い」とは、他者のメッセージが生み出す思い込みの物語 です。
- 日本の低成長や若者の将来不安など、しんどい現実はたしかに存在しますが、
それは「この国は完全に終わった」という結論とはイコールではありません。 - 呪いが効きやすいのは、学習性無力感・ネガティビティバイアス・社会的比較・権威バイアスという
人間の脳のクセと相性が良いからです。 - 「それは呪いだ」とラベリングし、事実と解釈を分け、
自分の小さな成長ログと3か月の実験を積み重ねることで、
呪いの効き目は確実に弱まります。 - 一次情報や専門書にアクセスすることで、
他人の物語ではなく 「自分の頭で考えた物語」 を選び直すことができます。
今日からできる具体的な一歩
最後に、この記事を読み終えた「今日」からできる行動を3つだけ提案します。
- 「日本は終わってる」的な言葉を、1つノートに書き出し、
その横に「事実」と「解釈」を分けて書いてみる。 - 自分の「小さな成長ログ」を始める。
今日やったことを3つだけ、箇条書きで記録します。 - 3か月の人生実験のテーマ候補を3つ書く。
副業・学習・健康・お金。ジャンルは何でもかまいません。
呪いは、まとめて消えるものではありません。
ですが、「今日、何を信じて、どんな行動をとるか」 は、
常にあなた自身が選び直せます。
「この国は終わってる」という物語に飲み込まれるのか。
それとも、「自分の物語は、ここから始まる」と書き直すのか。
その選択権は、静かに、しかし確実に、あなたの手の中にあります。


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